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渡辺さん

私は彼の眼を見た瞬間に確信した

「・・この男、ナベさん、と呼ばれると思っているな!!」

世の中のほとんどのワタナベさんがそうであるように、その男もまた

自分はこの新しい職場で「ナベさん」という愛称で呼ばれることを

信じて疑わない目をしていた。


それは、村上龍と村上龍ファンが嫌悪してやまない

生ぬるい予定調和に慣れ親しんだ日本的な集落の眼


「ワタナベにうまれついた以上、どこにいってもナベさんと呼ばれるに違いない」

という暗黙の了解のもとでずっと過ごしてきた人間の

危機感のない表情。

いうまでもないことだが、そんなものはこの国の外ではまったく通用しない

自分はナベさんと呼んでもらえるだろう、などという甘い考えでいると

海外では銃で撃ち殺されても何も言えないのだ

それが当たり前のことだということに

この国にいるとなかなか気付きづらくなる


私は彼の眼を見、言った

「きさまはこの新しい職場でも、当たり前のようにナベさん、と呼んでもらえると思っているようだが

ここはきさまがいままでに見てきたような甘い世界とはわけが違うぞ!

そのことだけはキモに銘じておけ、わかったか、ワタさん!!」


生まれて初めてワタさんと呼ばれた!!ワタナベにうまれてこのかた

俺のことをワタさんと呼んだのはこの男が初めてだ!!

ワタさん、ワタさん・・・

いままでに誰からも呼ばれることなく切り捨てられてきた俺の名字の前半分が

悦びで震えているのを、今激しく感じる・・・

俺は、いま・・たしかに生きてる。

俺は・・・ワタさんなんだ。


その男がその瞬間、私のことを死ぬほど尊敬したのを

ありありと感じた。

そう・・・彼もまた、日本的な予定調和のなかから

出たがっていた一人だったのだ・・。


その後、ワタさんというあだ名はまったく定着せず

三日後にはだれもが彼のことをナベさんと呼ぶようになったため

ちょっとテレながら私も彼をナベさん、と呼ぶようになるのだが

それはまた、別のお話

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genre : 日記

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