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子羊達の沈黙

「きゃー、ちょっとちょっと、カズヒロさんよ

あ、今わたしを見た

ねぇ、ねぇ、カズヒロさん今わたしを見たわっ」


「はあっ?なに言ってるの?

アンタそろそろコンタクトのかえどきなんじゃない?

カズヒロさんはね

今、あたしを見たのっ!

誰があんたみたいなブスを見るもんですかっ!

鏡を見てものを言ったらどう?」


「きいぃっ、なんですってェ!

カズヒロさんは今確かにわたしのほうを」


いい気になってる気がする


俺は廊下の向こうで騒ぐ女子二人を見つめ

クールぶったカズヒロの横顔を見る


こいつ、まさか、いい気になってんじゃねーよな?


今朝、下駄箱を開けると大量のラブレターが

カズヒロの下駄箱からあふれでてきた

なんだっ?そんなムーブメントが来てるのかっ!

ラブレターブーム到来っ!?

もしかして今日からは毎日皆の下駄箱にラブレターがほおりこまれるようになったの?

そんな日本のあらたな文化的習慣

わりとカモン!なんだけど

とあわてて下駄箱を開けた自分が恥ずかしくなるほど

俺の下駄箱には何も入ってなかった

「日本の景気がよくなってるっていうけど

俺達の給料は全然かわらないんだよな」


とテレビで嘆くサラリーマンがなぜか俺の頭に浮かんだ


カズヒロは俺の手からハート型のシールで封をしてある封書を奪い取ると

青春に向かって駆け出していった


一人下駄箱に残された俺は

急にものすごい不安にかられ

端から適当に五個くらい下駄箱をあけてみて

そこになにも入ってないことにホッとする

もしかしたら今日から皆の下駄箱にラブレターが入っていて

俺のにだけ入ってないんじゃ・・・と不安になったのだ


カズヒロが歩くと周りの女子がさわぐという状況が

さっきからずっと続いている

廊下の向こうで女子が小さく手をふる

カズヒロははにかんだ笑顔で小さく手をふりかえしている


俺は、その赤くそまったカズヒロの顔を確認する

その表情のどこかに、ちらっとでも

いい気になってる気配があったら大変なことだからだ


俺とカズヒロは、中学に入ったころからずっと同じクラスで

ずっと同じ、スクール型カースト制度の底辺をはい回っていた

キモイカズヒロ、キモイタクマという共通の苗字を与えられ

キモイ家の人々、というカテゴリのなか一緒に暮らしてた

そのカズヒロが、今、俺から遠い場所へ行こうとしている


確かに、あの番長をカズヒロが倒したっていうのはすごいことだと思う

中学生にしてすでにわりと太めのひげがはえてきてた

あの番長の先走った男性ホルモンを叩きのめしたっていうのは

尊敬に値するとは思う

だけど・・


「おい、カズヒロ、おまえさっきから

なんか、やけに俺と距離をとって歩いてるんじゃね?

まさか、俺と一緒に歩くのが

恥ずかしいってんじゃないよなぁ?」


「え?なに言ってんだよタクマ

いつもどおりじゃん」


「かぁーっ、しらをきってんじゃねぇよカズヒロ

いや、もうカズヒロさんって呼ぶべきですかね?

一日にして士農工商の上位にいかれたカズヒロさんとしては

俺なんかと一緒に歩くのは恥ずかしいってわけだ」


「いやいや、なに言ってんだよタクマ。おまえちょっとへんだぞ」


「あぁそうだよ、俺はもともとヘンなんだよ

ヘンなヤツ軍団から抜け出し遊ばしたカズヒロさんからみたら

やっぱ俺なんかもう友達じゃねーって感じですかね、けっ」


「何言ってんだよ、タクマ

おまえはすげー大事な友達だよ

俺がどのくらいおまえのことを大事に思っているか

じゃあ今からみしてやるよ


タクマ、友達だから言うけどな

おまえ


鼻毛でてるよ」


なぁっ!完全にいい気になってやがる!


他人の外見をあげつらうようなヤツにまでなり下がりやがったのか、カズヒロ

しかもこのタイミングで

俺の一番弱い弱い部分を

ピンポイントでえぐってきやがった

俺が鼻毛関係弱いことを知ってのロウゼキだ


俺らにとって他人の外見をあげつらうようなことだけは

タブーだったはず

どんなに非美人を見つけたとしても

その外見を笑えるほどの外見をしていないことを

俺達はよーく知って、身のほどをわきまえてたはず


「いままで言えなくてごめんな、タクマ

でも、ホントは

おまえ、オールウェイズ鼻毛でてたんだ」


俺にとどめをさそうとするカズヒロを置き

俺は上を向いて走り去った


涙が、こぼれないように



その後、インターネットの世界に出会ったタクマは、その「自分みたいなうんこが生きていてどうもすいません」という文体で誰もが物語る世界におおいなる共感を抱き、某掲示板にて暴れまわる暴君となるのだけども、それはまた別のお話

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