カズヒロが音楽を聴き始めた
だいたい、俺たちが中学になるくらいから
カッコつけてるヤツから順番に皆 音楽をききだすんだ
しかし、俺とカズヒロはそのムーブメントにガンとして逆らい続けた
突然音楽を聞き出すというのは、なにか
いままで「僕」と言っていたのに
急に「俺」と名乗りだしたときのような
気恥ずかしさがあり
なんだか のれなかった(しかも、私、音楽聴いてる~♪と言っているやつが、皆嫌いな感じのやつらばっかりだった)
(ちなみに皆で集まって体育館裏でたばこを吸うのも
同じような恥ずかしさがあり、乗れなかった俺とカズヒロ)
が、しかし、だ
ここへきて、カズヒロが突然音楽なんぞを聴くようになった
俺は、べっ、別におまえが音楽聴くことなんて
ちっとも気にしちゃあいねぇけども
というふうを装って
それとなぁく、カズヒロに尋ねた
どうして、急に音楽を聴くようになったのかと
カズヒロは、
いやぁ、なんとなくだよとかふざけたはぐらかしをかましながら
俺にCDを貸してくれた
これ、すごくいいから聴いてみて
だと
こいつ、完全に上から見下ろしてやがる!高校生にもなって音楽の良さがわからない俺に、音楽への扉をひらいてあげる
みたいなキャラ設定を自分のなかで作って
菩薩のような笑みであわれな文化的発展途上国タクマに物質的援助のつもりか?えぇ?
100年はぇえんだよ、カズヒロのくせによぉ、えぇ!
でやんす、~でやんす、てこないだまで言ってたようなやつがよぉ
おしゃれぶって俺に「これ、いいからきいてみ」だぁ?まぁ、しかし、せっかくだ、聞いてみよう
そして、プレイボタンを押し、すぐにへんな違和感が・・・
なんだろ、これ、身体がむずむずして、なんか恥ずかしい・・・
ちょっと聴いてみて、それがいい音楽なのかどうなのかわからないものの
なんとも言えない微妙なむかつきを覚えた俺は
念のためにカズヒロが貸してくれた他のCDも一通り聞いてみて
そのすべてにもれなくむかついたので
もしかしたらカズヒロの趣味にむしずが走っているのかも
とも思い、コンビニのBGMで流れるほかの音楽にも耳をかたむけてみた
ぜっ、ぜんぶムカつく・・・
「俺は~いま、ちょっと忙しくって
あいにはいけないからー
そっちからー くればいいのにぃ~♪」俺は音楽についてはまったくわからない、が
やつらの歌詞が俺をムカつかせていることは間違いない
カズヒロが貸してくれたCDは全部女性ボーカルで(俺はこの選曲に
「女の子としゃべれない僕たちでも、女の子の声をきくことができるんだよ」
みたいなカズヒロのふざけたメッセージを受け取った気がした)
歌詞はもれなく恋の歌
ずっと凍えていたの・・灰色の世界で・・・
あなたと 出逢うまえまでは生きているって感じれなかった・・・
痛みも 喜びも すべてがうすい膜の向こうの出来事のように・・・
そう・・・あなたと出逢うまではえ?なに?
いまだにあなたと出会う前の世界まっただなかの俺に言ってんのか?えぇ?
それはつまり、灰色の世界の住人のホープレスな俺に、遠まわしに
死ね、て言ってるの?
恋もせず、痛みも喜びもうすい膜の向こうの出来事まっただなかの俺は
灰色の世界で凍え続けて17年な俺は
うまれてこの方 一度もあなたと出逢ってない俺は
いったいなにが楽しくて生きてるんですかね~?て歌ってんのかコラァ!!
薄い膜のなかで生きてるってのかぁ!!童貞だから膜のなかだってかぁ!!
守られ放題だっつーのかぁ!俺の人生を
遠まわしにやわらかく、ロマンチックに否定してくれる歌声
「やっぱ、あの曲は歌詞がいいよね~」
とかほざくクラスメイト・・・
だから・・・音楽なんて・・・聴きたくなかったのに・・・
とにかく、やつらの文体はこうだ
世界は基本的にクソ、でも恋があるから生きていける
失恋の歌でもそう
あなたといた夏がうそのように
そう・・・一人で歩く冬の街は寒くて・・・寒くていやいや、夏に比べりゃ
そりゃ、冬は寒いっしょ
とにかくね、過去形であなたがいた季節のすばらしさを語られたり
過去形で、あなたと出逢う前の世界のさみしさを歌ったりしまくるのが
王道パターンみてぇだけど
その あなたがいない過去形まっただなかの俺のような人間に
申し訳ないみたいな何かはないのかな
あぁ、もうとにかく、きみとであってすべてがかわった
世界が急に色をつけて ごはんもおいしく三杯おかわりしたよ
きみと出会って、宿題忘れの回数がへったんだ
あぁ、いとしのきみよ・・・あぁ、もう
とてもじゃないけど
言葉では言い表せないっ!!いやいや、言葉では言い表せないって
さんざん言葉で歌ってきておいて
最後のまとめがそれかよ、おい
言葉で言い表せないって この人
ひとつのアルバムで5回も使ってるからね!!
ちょっと誰か、かわりに歌詞を書いてあげてっ!!
これで印税もらって、いいの?大丈夫?
ていうか、言葉で言い表せないって
だったら、ラララで歌ってろよ、なぁ
いままで、さんざん
俺の心を切り裂いてきた君の言葉たちは
いったいなんだったのォオオオオオ!!!後日、カズヒロに
「もれなくクソでした」
と書いた手紙をそえて、CDは返した
二個ほど、ケースにヒビがはいってたのは
俺のせいじゃないよ、って言い張ったし
theme : ひとりごとだよ。独り言。(-?ゝ-)ゞ
genre : 日記